ガットフレイルとは?便秘との関わりや便秘解消のために心がけたい生活習慣を解説

ガットフレイルとは?便秘との関わりや便秘解消のために心がけたい生活習慣を解説

みなさんは「ガットフレイル」という言葉をご存じでしょうか?聞きなれない言葉かもしれませんが、これはGut(ガット)=胃腸とFrailty(フレイルティー)=虚弱を組み合わせた「胃腸の働きの虚弱化」を表す新しい概念です。

このガットフレイルは、さまざまな病気の増悪因子と考えられており、特に「便秘」は重要なガットフレイルの要因であるとされています。今回は、ガットフレイルの提唱者である内藤裕二先生に、ガットフレイルとは何か、また便秘との関わりや便秘対処のための生活習慣などを解説いただきます。
内藤 裕二 先生

監修

内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)

ガットフレイルとは「胃腸の働きの虚弱化」を表す新概念

ガットフレイルとは、「胃腸の働きの虚弱化」という意味で名付けられた新たな概念です。この概念は、赤ちゃんから始まり人生すべてのステージ、特に働き盛りの世代も含んだ人々のWell-being(=“からだ・こころ・社会生活”が健やかであること)を「ガット=胃腸」への対策から目指すために生まれました。
研究が進んでいく中でガットフレイルは、種々の疾患の増悪因子、慢性炎症の原因、フレイルの先行要因となり得ることがわかってきました。また、胃腸の状態は脳にも影響を与えることがわかっており、胃腸の不調が精神的な疾患やアルツハイマー病などの脳の病気にも関わっていることが明らかになってきています。

※フレイル=病気ではないけれど、年齢とともに、筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態を表す。

なお、ガットフレイルの病態の解明と対策は日々研究が進められている状況です。

現状では、「出雲スケール」と呼ばれる、消化器症状のある患者のQOL(生活の質)評価のために作成された問診票で自分の胃腸の状態を調べることができます。検証の結果、この出雲スケールは、患者のQOLの低下を的確に検知することが明らかになっています。
出雲スケールの内容は、ガットフレイルをスクリーニング診断する際の指標になると考えられています。将来的には、出雲スケールを始め、睡眠時間、ストレス、普段の食事などのデータを複合的に解析することで、病気の原因や予防策を明確にする研究が進められるでしょう。
出雲スケールの問診内容を構成する5症状は以下の通り。症状ごとの回答をポイント化し、消化器症状による日常生活への支障やQOLへの影響をスコア化します。
現段階では、ガットフレイルをスクリーニング診断する際の潜在的な指標の候補として以下のような症状が挙げられています。

  1. 胸やけ症状
  2. 胃痛症状
  3. 胃もたれ症状
  4. 便秘症状
  5. 下痢症状

※ガットフレイルの臨床スクリーニング、診断方法は現在検討が進められています(2024年2月時点)

Well-beingを目指すうえで、ガットフレイルにならないように対策する必要がありますが、その中でも、まず取り組みたいのが「便秘」への対策です。便秘は重要なガットフレイルの要因と考えられています。
次章ではその便秘とガットフレイルの関係を紹介します。

便秘の人はガットフレイルになりやすい

多くの人が抱える便秘はガットフレイルの重要な要因とされ、便秘の人は、便秘ではない人と比較して10年後、15年後の生存率が有意に低いことが示されています。
そんな便秘による症状が、長期間続くとどのような疾患が起こるのか詳しく見てみましょう。

便秘が続くとどうなる?

便秘が続き、その状態を放置しておくと、大腸内の便は硬くなり、排便の周期が余計遅れる悪循環が生じます。さらには次に挙げるような、便秘の合併症ともいえる疾患を引き起こす恐れがあります。

※以下の疾患・症状は、医師の診断が必要なものもあります。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

便秘の合併症として、まず挙げられるのが痔の症状です。大きく分けて、肛門の粘膜が切れる裂肛れっこう、いぼのような静脈瘤ができる痔核じかく、直腸から肛門の周囲に小さな穴が開いて膿が流出する痔瘻じろうの三つに分類されます。

脱肛だっこう

便が硬くて排便時にいきむことで痔核の血管が膨れ、痔核が次第に肛門の外に出てくる症状です。くり返されると、直腸を覆う粘膜も一緒に肛門外へスライドする(直腸粘膜脱)といった症状を引き起こす可能性があります。

糞便塞栓症ふんべんそくせんしょう

便が直腸内に溜まって固まり、腸をふさぐ大きな便塊となった状態です。

大腸の潰瘍かいよう穿孔せんこう・腹膜炎

大腸内に便が滞ることで、粘膜が炎症を起こして深くえぐれてしまう潰瘍や穴があく穿孔などを引き起こします。また、お腹の中に便の細菌が広がって腹膜炎になる恐れもあります。

その他

便秘が続くと、肌荒れなどの肌トラブルも起こりやすくなります。また高齢者の場合、認知機能障害(認知症)のような症状が現れることも。これらは、大腸のバリア機能(便中の腐敗物質や細菌などが体内に侵入するのを防ぐ機能)が、便秘のために破綻する結果と考えられています。

さらに、便秘がガットフレイルの重要な要因とされる理由に、慢性腎臓病(CKD)、急性心筋梗塞(AMI)、パーキンソン病(PD)などの神経変性疾患などを発症するリスクが高い点が挙げられます。

※以上の疾患・症状は、医師の診断が必要なものもあります。心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

便秘は莫大な経済的損失をもたらす!?

このようにさまざまな疾患を引き起こす原因とされている便秘ですが、昨今では莫大な経済的損失をまねくことも危惧されています。2019年5月アメリカ・サンディエゴで行われた米国消化器病週間(DDW)では、日本の慢性便秘症の人は「年間122万円の労働生産性を損失している」と発表され注目を集めました。

これは、日本神経消化器病学会理事長、日本ガットフレイル会議理事の三輪洋人先生を始めとする調査メンバーが、日本人の慢性便秘症とQOLの関係性を探る大規模調査を実施し、その結果をもとに算出された数値です。

※Quality Of Life(生活の質)

調査では、日本国民健康・福祉調査2017に回答した日本人30,001人を対象に、慢性便秘症の方を、慢性便秘がない方、2型糖尿病などその他の疾患がある方とそれぞれ評価し、QOLを数値化したデータを公開。それらの数値をもとにQOLと便秘の相関関係を明らかにしました。

数値を比較した結果、慢性便秘症の患者は非便秘患者に比べて、身体的側面でも精神的側面でも国民標準値よりQOLのポイントが低いということが示されました。さらには慢性便秘症患者が、欠勤率が高かったり、不調をきたしたまま仕事をしているため、本来のパフォーマンスが発揮できていない傾向が高いことも明らかになりました。

便秘の改善は、ガットフレイルを未然に防ぐとともに、生活の質を向上させWell-beingを実現するために不可欠である、ということもこの研究結果から示されています。

便秘解消のために心がけたい生活習慣‐酪酸菌も意識しよう

ガットフレイルへの対策をしていくために、まずは便秘を改善していくことが必要です。ここでは、便秘解消のために心がけたい生活習慣を紹介します。

朝食をしっかり取る

まずは朝食をしっかり取ることから始めると良いでしょう。朝食は、朝起きたときの空っぽの胃を満たし、腸に刺激を加え、排便を促してくれます。また、毎日同じ時間に食べることで排便習慣をつけることにもつながります。

朝食を食べ、朝から大腸の活動を活発にし、便意を促す生活を心がけましょう。

排便習慣を身につける

朝食の次に、排便の習慣化が必要です。便意がなくても朝食後の排便習慣をつけるようにすることが大切。朝の家事や出勤・通学準備の一連の流れの中に排便を必ず組み込み習慣化することで、排便リズムを整えることができます。

また、便意を感じたらすぐトイレへ行き、我慢をなくすようにしましょう。我慢をくり返すことによって、便意が感じなくなってしまう恐れがあります。

ストレスを解消する

ストレスによる自律神経の乱れも便秘の原因のひとつであるため、ストレスを解消することも重要です。

大腸の働きは自律神経で調整されており、ストレスなどで自律神経が乱れると、胃や腸の動きに異常をきたし、便秘を引き起こします。そのため、日頃の運動や趣味など、自分なりのストレス解消法を持つことは、便秘の改善につながるといえるでしょう。

体を温め、冷えをなくす

体を冷やさないことも便秘対処に有効といえます。

体の冷えにより自律神経が乱れることで胃腸の活動も鈍るため、便秘を引き起こす要因となります。冷たい飲み物や食べ物の摂りすぎ、長時間の冷房環境にさらされること、運動不足による冷えも便秘の一因です。

体を温める食べ物、例えば、ショウガ、にんにく、ネギ、ニラ、カボチャなどを積極的に食べる、半身浴やマッサージなどで手足や下半身の血行促進を行うなど、体を温める習慣も便秘解消に役立ちます。

腹式呼吸を行う

腹式呼吸は、鼻からゆっくりと息を吸いお腹を膨らませ、口から息を吐きながらお腹をへこませる呼吸法です。腹筋や横隔膜を刺激して腹腔ふくくう、ふくこうの内圧を高めるため、排便時にスムーズに便を送り出す動きが身につきます。

また、腹式呼吸をすることで腸が刺激され便意も起こりやすくなるというメリットもあります。

運動習慣を身につける

運動すること、つまり筋肉を動かすことは腸への刺激を与え、便秘の改善に効果的といわれています。

軽いウォーキングをする、階段を利用する、自宅でのストレッチを習慣化するなど、適度な運動を習慣化することで便秘解消を目指しましょう。

こまめに水分を補給する

便秘は水分の摂取量の不足により起きるケースもあります。水分不足のうえさらに大腸で水分が吸収されると、便は硬くなり排便しづらくなる一方です。朝起きがけに水をのむと、朝食と同様、腸が刺激されて動きが活発になり排便効果が期待できます。便を柔らかく保ち、スムーズな排便を促せるよう、こまめに水分補給を行いましょう。

食物繊維で腸内環境を整える

腸内環境を整えることも、便秘解消の手段のひとつです。善玉菌(有用菌)のエサとなる食物繊維を意識的に摂ることで便秘の解消も期待できます。また水に溶ける「水溶性食物繊維」と水に溶けにくい「不溶性食物繊維」の二つの食物繊維がそれぞれ腸の健康をサポートします。

キウイフルーツやわかめ、カボチャ、さつまいもなどに豊富な水溶性食物繊維は、腸内細菌のエサになり、善玉菌を増やす役割を担ってくれます。発酵・分解されて作られた短鎖脂肪酸が腸内環境を整えるためです。

一方、モロヘイヤや大根、ブロッコリー、こんにゃく、インゲン豆などに豊富な不溶性食物繊維は、腸内で水分を吸収して膨らみ、便のカサを増やすことで排便を促す働きがあります。

水溶性・不溶性、どちらの食物繊維も、バランスよく積極的に摂取する食生活を心がけてください。

酪酸菌を意識した生活習慣を心がける

便秘解消のために注目したい腸内細菌が「酪酸菌」という善玉菌で、この酪酸菌を意識した生活習慣を心がけることが、便秘解消への近道です。

酪酸菌が産生する酪酸という短鎖脂肪酸は、大腸の主要なエネルギー源であり、腸の正常な働きを支える役割を担います。また、酪酸は、大腸のバリア機能に必要な粘液の分泌を促します。大腸の粘液は、腸の壁や便をコーティングし、有害な菌や物質から体を守るとともに、便をスムーズに排泄させ便通を整える役割があります。

ただし酪酸菌が含まれる食品は、ぬか漬けや臭豆腐くらいしかないため、整腸剤やサプリメントから摂取することも選択肢のひとつです。酪酸菌を摂取すると同時に、もともと腸内に生息する酪酸菌を育てる観点で、エサとなる水溶性食物繊維を意識的に摂取すると良いでしょう。

便秘に関連するアリナミン製薬の整腸剤

最後に注意点として、動物性脂肪やタンパク質を摂取しすぎると、大腸菌などの悪玉菌(有害菌)が増加するとされています。結果、腸内細菌のバランスが乱れ、排便を妨げることとなるため、便秘改善を目指す方は、油っこいものや麺類、スイーツなどはできるだけ控えるようにすると良いでしょう。

ガットフレイル対策―まずは便秘を対処しよう

便秘を放置しておくことは、ガットフレイルを引き起こす一因となることがわかりました。ガットフレイルは深刻な疾患の引き金ともなるため、早めの対処が肝心です。ここで挙げた生活習慣を実践することで腸内環境を整えて、自身のWell-beingを実現させましょう。

参考文献

  • 食品化学新聞社, Food style 21 : 食品の機能と健康を考える科学情報誌 27(4), 31-35, 2023-04
    「ガット(腸)フレイル〜腸内環境での代謝が健康を司る〜」内藤 裕二(著)
  • Yuji Naito . Digestion. 2024;105(1):49-57「Gut Frailty: Its Concept and Pathogenesis」
  • 日本ガットフレイル会議(https://jgfc.jp/about/
  • T Tomita, H Miwa, et al. J Gastroenterol Hepatol 2021, 36: 1529-1537.