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新型タバコだから大丈夫?~禁煙実践編~

新型タバコだから大丈夫?~禁煙実践編~

〈話し手〉 松崎 道幸 Michiyuki Matsuzaki(道北勤医協旭川北医院 院長/日本禁煙学会 理事・受動喫煙対策委員会委員長)

 前回は新型タバコに関する製品の特徴、法的枠組みでの位置づけや規制などに着目し、“新型タバコは禁煙推進対策にはならない”ことを紹介しました。
 今回は、「害は少ない」という誤解から起きる受動喫煙による影響や、実際に禁煙をどのように勧めるかを取り上げます。お話しいただいたのは、喫煙に関する問題に長く関わってきた松崎道幸先生です。

※本記事は、武田薬報webに掲載していた当時の記事になります。

新型タバコも紙巻タバコも国際的な扱いは同じ受動喫煙防止の規制対象

 前回も紹介したように、日本が締結している国際条約『たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(通称「FCTC:たばこ規制枠組条約」WHO Framework Convention on Tobacco Control)』では、葉たばこを使用した製品を全てタバコ製品と定義されています。
 したがって、葉たばこを使った新型タバコは、紙巻タバコと同様に受動喫煙防止対策の規制の対象に含まれます。

日本の受動喫煙対策の歴史

 日本の喫煙に対する規制は諸外国にかなり遅れをとっています。これは、喫煙者自身だけではなく、非喫煙者に対する受動喫煙対策でも同じことが言えます。
 実は、受動喫煙による健康被害を世界で最初に発表したのは、日本の研究者、平山雄氏でした。1981年、BMJ(英国医師会雑誌:British Medical Journal)に受動喫煙によって肺がんのリスクが高まることを科学的根拠にもとづいて報告しています1)
 日本では、2003年に「健康増進法」が施行、受動喫煙の防止で明文化されました(努力義務であり罰則規定はなし)。学校や職場、病院、集会場、飲食店、店舗などで禁煙・分煙が進みましたが、分煙では受動喫煙を防げないため室内の全面禁煙が求められています。
 現在のところ2020年の東京オリンピック開催に向け、厚生労働省が受動喫煙防止対策を国際レベルまで強化しようと、飲食店では原則禁煙とする“改正健康増進法”いわゆる受動喫煙防止法案の成立を進めている状況です。また、自治体レベルで東京都は受動喫煙防止条例(仮)制定の方針を2017年9月に発表しました。
 先行して受動喫煙防止法が施行されている国の一つ、よく知られているスコットランドの事例(図1)があります。同法の施行前に比し屋内全面禁煙実施により非喫煙者の心臓発作等による心臓病入院リスクが低下しています。それだけではなく興味深いのは喫煙者の入院リスクも低下しており、喫煙の機会が減少したことが要因の一つではないかと考えられています。このように受動喫煙の防止が強化されることにより、健康リスク軽減データが世界各地で数多く集積されてきています。

受動喫煙防止法施行後に心臓病入院が減少(スコットランド)

図1 受動喫煙防止法施行後に心臓病入院が減少(スコットランド)

Pell JP, et al.:N Engl J Med. 359:482-491, 2008

新型タバコだと受動喫煙の心配はない?

 新型タバコは臭いが僅かで、「副流煙がないから受動喫煙の心配はない」という声がありますが、少なくとも喫煙者が吐き出す呼気には紙巻タバコと同程度の量のニコチンが含まれ、それが周囲の環境中に出ています。そして最近の研究で新型タバコの目に見えない蒸気中の有害物質による受動喫煙が確認されています2)
 近年、健康への影響が広く知られるようになったPM2.5よりも更に小さいサブミクロン粒子(SMPs)のタバコ製品からの放出と、それによる受動喫煙について調べた報告があります。特にSMPsは排泄されにくい肺胞まで到達しやすく、リスク要因と考えられています。研究モデルでは、50m²程度の一定の換気がある小部屋で種類の異なるタバコ製品をそれぞれ喫煙した場合の、喫煙開始から1時間にわたり同部屋に居る非喫煙者が吸入してしまうSMPsの呼吸器管系への沈着と分布を計測しています。新型タバコでも紙巻タバコほどではないもののその4分の1程度を吸入していました。このことから新型タバコでは、受動喫煙から逃れることができないことが明らかになりました(図2)。

受動喫煙擬似モデルにおいて紙巻タバコおよび新型タバコから放出されるSMPsの呼吸器系への分布

図2 受動喫煙擬似モデルにおいて紙巻タバコおよび新型タバコから放出されるSMPsの呼吸器系への分布

Pirotano C, et al.:Ann Ig. 28:109-112, 2016

サードハンド・スモーキングによる影響

 受動喫煙は、二次喫煙「セカンドハンド・スモーキング」(SHS:Second-Hand Smoking)とも呼ばれ、一般によく知られるようになりました。では、三次喫煙こと「サードハンド・スモーキング」(THS:Third- Hand Smoking)という言葉をご存じでしょうか。
 喫煙によって発生したタバコ煙は、家具や壁紙、カーテン、子どもの玩具、自動車の内装、エアコンシステムの表面に付着した後、徐々に空気中に再遊離します。これが「タバコ臭」として感知されるわけですが、その実体は化学変化を受けたニコチン由来発がん物質(タバコ特異的ニトロソアミン)およびさまざまな有害化学物質の混合体です。タバコの煙がない環境でも、タバコ臭が僅かでも残存している場合、非喫煙者は受動喫煙と同様にタバコ由来の有害物質にさらされます。これがTHSです。
 非喫煙者にとって煙が目に見えにくく余り臭いがしないため、新型タバコの見えない粒子の曝露を避けることが難しくなります。このことからも、新型タバコを使用している場合でも受動喫煙対策の重要性がよくわかります。「新型タバコだから大丈夫」ではないのです。

禁煙を上手に勧める声かけ

 新型タバコを禁煙ツールと思っている人や、害が少ないと思っている人たちへどのように禁煙を勧めるか、具体的に考えてみましょう。

●喫煙者の立場の変化を考える

 喫煙者が新型タバコを受容しているのは、禁煙の場所が増えた、職場で喫煙できないなどタバコ規制強化の社会背景があるほか、健康診断で医師から禁煙を勧められた、自分の健康が気になる健康指向などの課題を解決してくれるツールだと思われているからではないでしょうか。喫煙率が高かった20年前と比べると、喫煙によってがんや慢性疾患などの健康被害が生じるという認識は、すでにある程度は定着しているといえます(図3)。

喫煙が引き起こす健康被害

図3 喫煙が引き起こす健康被害

米国保健省公衆衛生総監報告書による喫煙・受動喫煙と各種疾病との因果関係の判定(2010年)

 しかし、「禁煙することは直ちに心臓発作などを軽減し、そして長期的にはがんや慢性疾患リスクを軽減し健康状態を改善する」、また「受動喫煙は小児と非喫煙者の早死にと諸病の原因であり、受動喫煙の曝露には安全レベルはない」ということは、一般にまだよく理解されていません。
 禁煙を勧めるときは、このような社会の変化と科学的に明らかになってきた情報を踏まえたアプローチがよいでしょう。新型タバコを始めるきっかけの一つに禁煙志向があると捉えて、禁煙を勧めてみてはいかがでしょうか。

●よりストレスが少なく、より短い時間で禁煙指導を実践するために

 私は禁煙外来の経験を踏まえて、最近では患者さんによりストレスが少なく、より短い時間で禁煙の実践について話し合うことができる新しいアプローチを取り入れています。

 それは喫煙者に改めて禁煙の意志を尋ねたり、禁煙の必要性を説明するのではなく、「どうやったらタバコを止められるか、一緒に考えませんか。最近は割と楽にタバコを止められる方法がありますから、やってみませんか」と切り出すことです。
 例えば、医師が高血圧症患者さんの喫煙を知ったら、これまでは「タバコを吸うと、高血圧がリスク因子となる心臓病や脳卒中などの病気になりやすくなるので、禁煙したほうがいいですよ」と説明したでしょう。
 しかし喫煙者は、家庭では家族にタバコを止めなさいと言われているはずですし、外では職場をはじめ人が集まるところでは大きな顔をしてタバコを吸えないことをよく自覚しています。そういった喫煙者がいまさら喫煙の問題点を指摘され、なぜ禁煙が必要かと説明されるとイライラしてきます。また禁煙を勧めている側も、説明に時間を要しても実り少ない結果になりがちで、お互いにストレスを感じるでしょう。
 したがって先に紹介したように、最初から禁煙の実行に向けて話を始めてよい関係を作りながら対話を続けていくと、話を先に進めやすくなりますし、次の機会も「どうですか」と声をかけやすくなります。
 これは医療機関に限らず、喫煙者や禁煙に関心を持っていそうな人に声をかけるときも同様ではないでしょうか。
 健康への害について別の切り口として、「喫煙者の寿命は10年短い」3)図4)や「喫煙者は介護が必要となる時期が4年早くやってくる」(図5)などは、禁煙意向が確認できたケースではとてもインパクトがあります。

喫煙者および生涯非喫煙者の生存曲線

図4 喫煙者および生涯非喫煙者の生存曲線

Doll R, et al.:BMJ. 328(7455): 1519,2004より作図

喫煙が引き起こす健康被害

図5 男性の喫煙状況別の平均自立期間

第3回 健康日本21評価作業チーム 平成23年7月14日 資料1
「健康寿命の指標」藤田保健衛生大学医学部衛生学講座 橋本修二氏報告より引用 厚生労働省

●禁煙意向者への具体的なアドバイス

 「昨今の社会情勢で喫煙しにくくなった」などいかなる理由であっても、禁煙意向を示した方に対して周囲は「禁煙することはとても素晴らしい決断である」ことにまず賛辞を表すことが大切です。そして本人の健康を中心に考え、本人の関心に合わせて禁煙の具体的メリットなどを話してみるのも一案です。ここではこれまでお話してきたポイントをQ&A形式でよくありがちなアドバイス事例として紹介します。

Q 新型タバコで禁煙にチャレンジできますか?

A 全く無理と思われます。支持できる科学的根拠がないどころか、最近の調査研究ではニコチン依存を助長すると考えられています4)5)

Q 周囲に迷惑をかけないように新型タバコにしているのですが?

A 周囲に受動喫煙は生じています。新型タバコからは目に見えない形の蒸気が発生します。臭いが少なくてかえって無意識に受動喫煙の害を与えてしまうことから、新型タバコも控えるのがよいと考えられます。

Q 新型タバコに替えると、健康の心配はなくなるでしょうか?

A 全くNo!です。新型タバコに替えても、紙巻タバコの喫煙とほぼ同じ量のニコチンが体に入り血管を収縮させるため、少なくとも心筋梗塞や脳梗塞のリスクは変わりません。また、「新型タバコから出る有害物質は紙巻タバコの10分の1だから安全」と言われますが、公表されているのは極一部の化学物質です。今後詳細にわたる調査研究が進められますが、それら結果を待たず「喫煙の害に安全というレベルがない」ことを知っておきましょう。

Q 何度も禁煙にチャレンジしてきましたが、ことごとく失敗してきました。意志が弱いのでしょうか?

A 意志の強さは全く関係ありません。ニコチン依存のせいです。禁煙にチャレンジすることはとても素晴らしいことです。次は禁煙外来やニコチンガムなどの禁煙補助剤などを利用してみるのがよいでしょう。

Q タバコは続けたい。タバコの害を緩和する方法はありますか?

A ありません。禁煙するのが唯一の方法です。早ければ早いほど10年の寿命が戻ってきます(図4)。また、喫煙を続けると早く介護が必要になる(図5)ことも真剣に考えないといけませんね。

●禁煙達成には周囲のサポートも活用を

 禁煙には、禁煙外来の受診や薬局・ドラッグストアで購入できるOTC医薬品のニコチンガムなどを使う方法があります。喫煙はニコチン中毒の症状であるため、自分の意志だけで禁煙することが難しく、こうした施設や機会を利用することで、スムーズに禁煙することができるのがメリットといえます。
 禁煙外来は5回の診察を受けるのが一般的ですが、医療者が介入する回数が多いほうが禁煙の成功率が高くなります。ニコチンガムについても、店頭の薬剤師や登録販売者からニコチン離脱症状の乗り越え方などアドバイスを受けることができます。
 禁煙に成功しても、3分の1の人は1年後までに再び喫煙しています。禁煙成功の一番大切なコツは、何度でもチャレンジすることです。いつまでも禁煙できないのは意志ではなくニコチン依存のせいなのです。周囲の温かい関わりの有無が禁煙達成に大きく影響しますので、周囲は禁煙を目指している人に寄り添ってサポートを続けることが大切です。

【参考文献】

1)Hirayama T:BMJ. 282(6259)183-185,1981

2)Protano C, et al.:Ann Ig. 28:109-112,2016

3)Doll R, et al.:BMJ. 328(7455): 1519,2004

4)Kalkhoran S, et al. : Lancet Respir Med. 4(2):116-128,2016

5)Hirano T, et al.:Int J Environ Res Public Health. 14(2): 202,2017

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