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きちんと知りたい生理痛

きちんと知りたい生理痛

〈話し手〉 対馬 ルリ子 Ruriko Tsushima(医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 理事長(産婦人科医・医学博士))

 毎月、多くの女性を悩ませている生理痛。その症状も対処も個人差は大きく、適切なセルフケアで快適に過ごしている女性がいる反面、寝込むほどの痛みにもかかわらず、我慢を重ねている女性も少なくないようです。
 厚生労働省研究班の調査によれば、月経のある女性の7~8割に生理痛があり、そのために鎮痛薬を服用している女性は約3割にのぼります。
 毎月のことだけに、生活の質をも左右しかねない月経――今回は月経について正しく知り、その痛みにどう対処するかを考えます。

※医学用語としては「月経痛」が正式な表現ですが、本サイトではお客様になじみのある「生理痛」と表記しています。

月経とは

 妊娠の準備として子宮のなかで厚くなった内膜が、妊娠しなかった場合に不要となって体外に排出される、これが月経です。
 子宮は大きく分けて子宮体部と子宮頸部に分かれており、位置は骨盤の中央、前方の膀胱と後方の直腸に挟まれています。また卵巣は、子宮を挟んで位置する左右一対の臓器で、卵子はここで成熟し、排卵されると卵管を通って子宮に送られます(図1)。
 子宮内膜は、子宮という小さな部屋の壁に貼られたじゅうたんのようなもので、卵巣内の卵胞から分泌される卵胞ホルモン(エストロゲン)の作用で内膜は厚くなっていきます。そして、排卵が起こると、卵胞は黄体へと変化し、黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌します。プロゲステロンの役割は、受精卵を迎える準備です。つまり、受精卵が子宮に着床しやすいよう、子宮内膜をふかふかな状態にして待機しているのです。卵子が受精すると、受精卵は一週間ほどで子宮のなかに運ばれ着床し妊娠します。
 一方、妊娠しなかった場合、黄体の寿命である約2週間が過ぎると、子宮内膜はプロゲステロンの低下に伴ってはがれ、毛細血管も断裂して出血し、子宮内に溜まって排出され月経が始まるのです(図2)。
 言い換えれば、月経は妊娠のために溜めていたエネルギーを放出するようなものですから、かなりの体力を消耗します。ですので、月経時には生理痛の他にも、風邪、膀胱炎、腟炎などの感染症や、頭痛など様々な随伴症状が起こりがちで、体調を崩しやすいのは、女性本来の体のしくみから避けられないことといえます。
 当院は20代後半~40代の働く女性の患者さんが多いのですが、来院理由の代表的なものは生理痛、月経前症候群、月経不順。この三つを合わせると約半数を占めます。近年、月経のトラブルは非常に多くなっています。

子宮と卵巣の構造

図1 子宮と卵巣の構造

対馬ルリ子先生ご監修

一般的な月経周期

図2 一般的な月経周期

対馬ルリ子先生ご監修

生理痛の正体は?

 生理痛は、プロスタグランジンという子宮の筋肉を収縮させる作用をもつ生理活性物質によって起こります。子宮内にはがれた内膜の組織や月経血が溜まると、子宮はそれを異物として認識し、押し出そうとプロスタグランジンが分泌されます。
 妊娠していない時の子宮はニワトリの卵程度の大きさで、その内側は1cm×3cmくらいの小さな空間です。その壁は厚さ1.5cmほどの筋肉で出来ています。出産時、子宮は大きくなるとともに増えた筋肉の力を使って赤ちゃんを押し出します。月経中も、ちょうど歯磨き粉のチューブをギュッとしぼるように、子宮に小さな陣痛のような収縮が起こっており、そのため誰でもわずかな痛みがあります。しかし、その痛みがひどく、生活に支障を来たすような状態は月経困難症と呼ばれます。月経中には、痛みのほかにも、月経血量が多いと貧血になりやすいほか、全身の倦怠感など様々な身体症状が現れます。
 生理痛は生活の変化やストレスの影響も受けやすく、就職や仕事の環境変化が影響して急にひどくなることも少なくありません。

月経時のひどく不快な症状:月経困難症

 月経困難症の要因はいくつかあります。一つは、特に病気ではないものの子宮内に溜まった内膜や月経血の排出の働きが悪いために起こる機能性月経困難症があります。子宮内膜はホルモンの働きによって厚くなりますので、はがれ落ちる内膜の量には個人差があります。はがれる量が多ければ、その分押し出しに力がかかるため生理痛がひどくなりやすいのです。また出産経験のない女性では子宮口が狭く、子宮頸管も細くて硬いですし、子宮の筋層が未成熟で固いことが多いため、押し出しに時間がかかり生理痛が長く続きやすくなります。このような機能性月経困難症は10代~20代前半の女性に多く見られます。
 一方、器質性月経困難症というものもあります。これは子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症など何らかの病気が原因で生理痛がひどくなる場合をいいます。
 20代後半~30代では子宮筋腫や子宮内膜症の人の割合が増加するため、器質性月経困難症の割合が高くなります。子宮内膜症というのは本来内膜が作られるべき子宮内ではないところに内膜が出来てしまう病気ですが、進行するにつれ痛みがだんだん強くなり、吐き気を伴うほどの痛みになっていく場合があります。また、卵巣などの周辺部に月経血が溜まり炎症を起こしますので、月経が終わってもまだ痛みが続くことも特徴です。

月経前の不快な症状:月経前症候群(PMS)

 生理痛以外の月経トラブルとして代表的なものには月経前症候群(PMS:Premenstrual Syndrome)があります。月経の3~10日前から増える頭痛、肩こり、腹痛、腰痛、肌荒れといった身体症状に加え、イライラ、落ち込み、情緒不安定、カーッとしやすいといった精神症状が現れるものです。これはプロゲステロンの増減と関係が深いため、月経が開始すると自然に緩和されます。前述した月経困難症は月経直前から月経中に現れ身体症状が中心であるのに対し、月経前症候群は月経の数日前から現れ精神症状も含めた多彩な症状が出るのが特徴です。ひどく眠いとか、逆に眠れないなど、メンタル面でも非常に不安定になりやすい症状で、女性全体の10~30%にあるといわれています(表1)。

月経困難症と月経前症候群の特徴

表1 月経困難症と月経前症候群の特徴

ダイエットによる月経トラブル

 最近の若い女性は体脂肪が少なく、痩せ型の女性が増えていることも生理痛や月経不順など月経関係のトラブルが起こりやすくなっている要因の一つです。女性ホルモンはコレステロールから作られるため、体脂肪が少ないと視床下部からのホルモン分泌指令が抑制され、その働きが弱くなりやすいのです。体脂肪率が22%以上あれば月経はほぼ順調ですが、17~18%になると半数が月経不順に、12%以下ではほぼすべての人が無月経の状態になることがわかっています。
 例え周期が一定しなくても、25~40日くらいの周期で定期的に月経が起こっていればあまり問題はありません。しかし、長期間の無月経は生殖機能だけでなく、全身に様々な影響を与える可能性もありますので注意が必要です。

月経と基礎体温との密接な関係

 基礎体温は月経周期と密接に連動しています。基礎体温とは、体温に影響を与えるような運動や食事をしない時に測った体温のことで、一般には起床時の安静な状態で測った体温をいいます。女性の基礎体温は月経周期に伴って変化するため、目に見えない卵巣の働きを知る目安になります。例えば、月経期間から排卵までは低温期が続きますが、排卵後に分泌されるプロゲステロンは体温を上げる働きがありますので、排卵後から約2週間は体温が上がる、つまり高温期となります。高温期が2週間以上続く場合は妊娠の可能性があります。

 基礎体温表は不妊治療や避妊のためにつけるもの、毎日測るのが面倒、というイメージもありますが、健康管理のために大変役に立つものです。第一に、月経がいつ始まるかを予測出来るというメリットがあります。高温期に入れば約2週間後に月経が始まるのは一定ですから、例え月経不順の人でも予定は立ちます。特に生理痛などのトラブルがある人にとっては、いつ体調を崩しやすいかを前もって予測出来れば、仕事のスケジュールを調整したり、休暇をとるなどの計画を立てることが出来るでしょう。また、月経前症候群の症状がある人は、基礎体温表をつけて症状を書き込んでみると、月経前の1週間はいつも調子が悪いといったリズムが自分でつかめてきます。
 また、排卵は起こっていないのに月経だけが来る無排卵月経という症状も意外に多いものです。排卵は風邪をひいたり、ストレスの影響でも止まることがあります。基礎体温表をつけていれば、高温期の有無で無排卵かどうかがわかります。
 基礎体温表は何ヶ月か続けてつけていくと、自分自身のホルモンのパターンがつかめますし、体の調子を把握しやすいというメリットがあります。さらに、産婦人科を受診する際に持参すれば、客観的な情報として医師にとっても大変貴重な情報になります。
 なお、妊娠を望む人は、排卵を事前に予測する「排卵日予測検査薬」もドラッグストアなどで購入できるようになりました。基礎体温と併せて使用するとより効果的です。

医療機関における生理痛の治療

 生理痛や月経中の症状が重く辛いと感じる場合は、早めに女性診療科や婦人科を受診しましょう。
 医療機関では、まず器質性月経困難症でないかどうかを確認します。子宮筋腫や子宮内膜症、子宮内膜増殖症などは症状だけで診断することは難しく、内診や経腟超音波検査が必要となる場合もあります。しかし、痛みが今までと違う、何となく変わってきたという心配があれば、恥ずかしがらず早めに医師に相談するようにしてください。生理痛の背後に何か病気があるのではないかという不安感、恐怖感がますます痛みを増幅させることもあり、受診後、特別な病気がないということがわかっただけでも心が軽くなったという患者さんは少なくありません。
 器質性月経困難症であればその原因となる病気の治療を行いますが、機能性月経困難症であることがわかれば、まずは鎮痛薬を使い痛みを緩和します。痛みは体力を消耗しますので、きちんと早めに痛みをとることが体力の消耗を防ぐために必要です。
 なお、鎮痛薬が十分に効かない方にはホルモン治療として低用量ピルを処方することもあります。低用量ピルとは低用量経口避妊薬のことで、成分としてエストロゲンとプロゲステロンを含んでいます。服用により排卵が抑制されますので、本来は避妊を目的に使用しますが、子宮内膜があまり厚くならないため子宮の負担が軽くなり月経血量や痛みを軽減することが出来ますので、月経困難症などの辛い症状にも有効です。副作用を心配する患者さんもいらっしゃいますが、低用量ピルは従来のピルに比べ含まれるホルモン量が少なく、副作用の軽減がはかられています。
 さらに、体質改善も期待し漢方薬を処方することもありますし、アロマテラピーなどの代替医療の治療法のなかにも効果が見られるものがあります。例えば漢方医学の考え方では、瘀血(おけつ)、つまり血液が滞っていることが生理痛の原因と考えますので、瘀血を改善する作用のある漢方薬を処方します。また、アロマテラピーでは、血流を良くし痛みをやわらげ、ホルモンのバランスを整える作用があるといわれているエッセンシャルオイルを用いてマッサージを行います。さらに、血流を改善するために即効性を期待して鍼を打つ場合もあります。

 月経困難症の方は、痛みのために起き上がることすら出来ず、月経中の1週間はずっと横になっていなければならないこともあります。加えて、月経前症候群(PMS)の症状を併せもつ方も多く、その場合は排卵から月経前の2週間にかけても体調が悪いので、実際には1ヵ月のうち約4分の3は体調不良のまま過ごすことになります。この期間は、顔色も悪く、肌のトラブルも増加します。患者さんのなかには、通学や仕事も続けにくくなり、人生に対して前向きになれず自信を失ってしまう方もいらっしゃいます。そうならないためにも、生理痛の痛みに早めに対処し、また少しでも快適に過ごすための方法を見つけることは生活の質を高めるためにも大切なのです。

セルフケアのポイント

OTC薬の鎮痛薬を上手に使う

 生理痛の痛みが軽度のものであれば、OTC薬の鎮痛薬で対処出来ます。OTC薬鎮痛薬には様々なものがありますが、NSAIDs(イブプロフェンなど)を含む鎮痛薬がお勧めです。
 生理痛の主な原因は、子宮の筋肉を収縮させる作用のあるプロスタグランジンによって起こります。プロスタグランジンは炎症や発痛、発熱にも関与します。イブプロフェンなどNSAIDsに分類される鎮痛薬は、このプロスタグランジンの合成を阻害する働きがあるため生理痛に効果があります。まず、自分に合う鎮痛薬を見つけ、上手に利用することが大切です。のんでからどのくらいで効き始め、どのくらい鎮痛効果が続くかを知っておくと安心して過ごせます。母親や学校の先生などから「薬をあまりのまずに我慢するように」と聞かされている女性も少なくないようですが、昔と今とでは、女性の生活も月経回数も違います。痛みを緩和することは体力の消耗を防ぐだけでなく、月経に対する恐怖感を除くことからも、鎮痛薬の使用はトータル的にも健康状態の向上につながります。
 鎮痛薬を使用するうえで重要なことは、用法・用量を守ることです。もし、決められた量をのんでも痛みが治まらなければ、医療機関を受診してください。また、鎮痛薬は胃腸障害を起こすことがありますので、空腹時を避けて服用するよう指導します。鎮痛薬をのむとだんだん効かなくなってくるとか、くせになる等と心配する方もいますが、月経時に用法・用量を守ってのむ程度であれば、そのような心配をする必要はないでしょう。

冷えの改善を

 体が冷えると子宮の血流が悪くなり子宮の筋肉が硬くなるため、月経血を押し出すためのより強い力が必要となり、生理痛を起こしやすくなります。漢方医学では冷えを病気の一つと捉え、血行不良が原因の冷えには、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が使われます。また、胃腸が弱い方に使われる生薬・人参が加わった当帰芍薬散加人参(とうきしゃくやくさんかにんじん)もあります。いずれもOTC薬として店頭に並んでいますので、症状に心当たりがある方は、薬局の店頭で相談してください。
 冷えは「万病の元」ともいわれますので、改善を目指しましょう。その他の対策として日頃から適度な運動をして血行を良くすること、下腹部や仙骨部(骨盤の中央にあり、背骨の下端に位置する骨)にカイロを当てるなどして温めることも、生理痛の緩和に効果があります。骨盤の周りの筋肉を鍛えて代謝を上げるのは体質改善にも効果があるので、下半身のストレッチ(図3)やピラティスなどもいいと思います。ピラティスは西洋のヨガともいわれ、もともと病気で寝たきりの方のリハビリテーションとして、筋力維持のために開発されたエクササイズなので、どこでも手軽に出来るというメリットがあります。

生理痛緩和のためのストレッチ例

図3 生理痛緩和のためのストレッチ例

食生活の見直しも

 食事についても東洋医学の考え方を意識した食事内容に変えるよう見直しましょう。例えば、白米よりは玄米などビタミン、ミネラルの豊富な精製されていない穀物を食べるように意識してください。野菜は、体を冷やさないように生野菜ではなく火を通して食べるように、さらに葉野菜よりも根菜を中心に摂るようにしましょう。また、甘いものをたくさん摂っている人は注意が必要です。月経前の女性は子宮内にエネルギーを補給するために糖分を必要としますので、生理的にも甘いものが欲しくなります。しかし、白砂糖のような精製された糖分を摂りすぎると栄養バランスが偏り、体力を消耗させ体を冷やす場合がありますので、生理痛が重くなったり精神的にも不安定になりがちです。甘いものはさつまいもや栗など、野菜や果実で摂るようにし、砂糖は精製されている白砂糖よりは黒砂糖を選び、生クリームの多いケーキよりは小豆を使った和菓子をいただくなど、食生活のなかで自分なりに工夫してみるようにしましょう。

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