熱中症
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熱中症

熱中症対策は、直射日光のような環境下の際に意識する方が多いですが、熱中症は屋内や夜間でも発症します。また、真夏だけでなく、梅雨入り前や急に気温が高くなった日などにも起こり、ときには命にかかわることもあります。とはいえ、熱中症はしっかり対策を立てれば防ぐことが可能ですので、熱中症の症状や予防策について正しく理解しておきましょう。

谷口 英喜 先生

監修

谷口 英喜 先生 (済生会横浜市東部病院 患者支援センター長・栄養部部長、東京医療保健大学大学院 客員教授)

熱中症とは?

熱中症とは、高温多湿といった気温や環境の影響で、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりして生じる、さまざまな症状のことです。軽症の場合、例えば軽い立ちくらみなどは、現場での応急手当で回復することが多いですが、重症の場合は意識を失ったりしてしまうこともあり、周囲の人の素早い助けが経過を大きく変えることがあります。

近年の熱中症の実態

日本の夏は年々暑くなる傾向が見られます。それに加えて“熱中症弱者”と言われる高齢者の人口が増加しています。周囲で熱中症の発生率が高まっているということを理解しておきましょう。また熱中症と聞くと真夏のイメージを持つ方が多いですが、最近では梅雨明けの直後、または梅雨入り前の急に気温が高くなった日などにも熱中症が発生するようになってきています 。

熱中症の発生場所としては、直射日光が当たる屋外が圧倒的に多いと思われるかもしれませんが、実際は4割を住居内が占めています。加えて、1割は商業施設などの不特定多数が出入りする屋内で発生しており、合わせて約5割は室内での発生です。また、年齢層については、搬送される患者さんの半数は高齢者 。さらに亡くなられる方に限ると、9割は屋内で発生し、9割が高齢者 であるというデータもあります。職域での熱中症も、4分の1は屋内で発生() しています。「外出時に注意する」だけでは、熱中症対策が不十分であることを覚えておきましょう。

※参考:「医学のあゆみ 2742号 熱中症に立ち向かう-予防と応急処置」

熱中症の原因とリスクを高める4つの条件

私たちの体は、体温が上昇すると適度な体温を維持するために、汗をかいたりして皮膚から熱を体外へと放出します。しかし、この仕組みが十分に働かないと、体内に熱が溜まって体温が上がり、熱中症を引き起こします。つまり、体内の熱の冷却システムの破綻が熱中症の直接的な原因と言えます。

冷却システムの破綻の起こりやすさは、気象条件や個人の年齢、体力・体調、生活状況などによって異なります。ここでは以下の4つに分けて解説します。

熱中症になりやすい気象とは?

熱中症の発生リスクは気象によって大きく左右されます。湿度や気温が高いとき、直射日光や照り返しが強いとき、風が弱いとき――。このようなときは、体内に熱が蓄積されやすく、その熱が発散されにくくなっています。当然ながら、これらの状況が重なることが多い真夏は熱中症のリスクが高い季節です。ただし、体がこのような環境に慣れていないとき、例えば56月の急に暑くなった日もリスクが高まります。

  • 暑さ指数(WBGT)とは?

熱中症になりやすい気象条件を評価する指標として「暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)」があります。暑さ指数は、専用の測定器で知ることができ、熱中症の危険度を判断する目安として運動時や作業時の対策の指針として活用されています。

熱収支(人の体と外気との熱のやりとり)に与える影響の大きい、「気温」、「湿度」、地面や建物が発する「輻射熱(ふくしゃねつ)」という3つの要素を、気温1、湿度7、輻射熱2の割合で計算するのですが、この割合からも熱中症のリスクにとって湿度が重要な要素であることがわかるでしょう。

暑さ指数は日常生活においても参考になるので、気象庁のWebサイトなどをチェックしてみてください。

日常生活に於ける熱中症予防指針

熱中症になりやすい作業や行動とは?

熱中症になるリスクを高める2つ目の条件は、行動に関することです。具体的には、激しい運動や慣れない運動、長時間の屋外作業、水分摂取のタイミングが限られている状況、そして火を使う職場や作業などが挙げられます。このような条件が当てはまる場合は体内に熱が蓄積されやすく、大量に汗をかいて脱水状態にもなりやすいため、熱中症リスクが高まります。

  • 脱水と熱中症の深い関係

熱中症リスクを下げるように働く体温の冷却システムにとって、発汗と血液の循環はとても重要です。なぜなら、汗が皮膚から蒸発する際に、気化熱として体温を奪ってくれるからです。脱水のために汗の量が減ると、この冷却システムが十分に働きません。

また、脱水によって血液中の水分量が減り血液循環が滞りがちになると、体表面で冷やされた血液が体内に行きわたりにくくなります。そのために、脳などの重要な臓器の温度が効率よく下がりません。

脱水の兆候は、尿の色が濃くなる、排尿回数が減る、食欲の低下、肌のつやがなくなる・乾燥する、口の中がねばつく、便秘になる、血圧低下などとして現れます。また、食欲の低下は、脱水をさらに進行させる原因でもあります。

熱中症になりやすい人の特徴とは?

熱中症のリスクを高める3つ目の条件は、年齢や個人の特徴に関することです。

1.高齢者

脱水は熱中症と密接な関係がありますが、加齢とともに体内の水分の量が少なくなってきて脱水になりやすくなるため、高齢者は熱中症のリスクが高いと言えます。また、高齢者は脱水になっても口の渇きを感じにくく、暑さに対しても感覚が低下している場合が多いです。

高齢者の中には暑くてもエアコンを使いたがらない方も多くいます。しかし体内に熱が蓄積されて熱中症を引き起こすリスクを高めるため危険です。とくに一人暮らしをされている方の場合、もし熱中症で動けない状態になっても見つかるのに時間を要し、その間に重症化してしまいがちです。一人暮らしの高齢者は、ご本人が予防意識を高めるとともに、家族などの見守りが大切です。

2.子ども

子どもは体内の熱の冷却システムが未熟です。また、体に対して体表面積が大きいために、気象条件の影響が大きく現れます。それに加えて、屋外では大人よりも地面に近い位置に全身が位置することも、コンクリートなどの輻射熱を受けやすくなるために、熱中症リスクを高めます。

3.慢性疾患のある人、障害のある人

肥満の人は、水分量の少ない脂肪を多く蓄積しているため、熱中症のリスクが高いです。また、重い体を動かすため、発生するエネルギー量が多くなりますが、皮下脂肪は体内の熱を逃がす効率を妨げるので、熱中症のリスクを高めます。

その他、糖尿病で血糖管理不良の人は脱水になりやすいため、熱中症のリスクが高いです。また、心臓に病気のある人、自律神経に影響のある薬を服用している人、四肢に障害がある人なども、発汗機能が低下しており熱中症リスクが高い可能性があります。

熱中症になりやすくなる、その他の条件

熱中症のリスクを高める条件として体調も押さえておきたいポイントです。下痢や二日酔いのときは体が脱水になっているので危険です。また睡眠不足や、体力を消耗して疲れている人も、温度調節機能が低下している可能性があり、熱中症へのリスクが高まります。日差しが最も厳しい正午だけでなく、夕方近くにも、熱中症発症や熱中症による死亡のピークの時間帯があります。この事実から、疲労の蓄積が熱中症のリスクであることが関係していると考えられるでしょう。

その他、屋内でエアコンを使おうとしないことも、熱中症になるリスクを高める習慣です。屋外に比べると屋内は周辺温度が徐々に高くなるため、実際にはかなりの暑さになっているのに気づかないことがあります。また、脱水は数日間かけて進行して、徐々に熱中症リスクを高めるため、当日の気象条件がそれほど厳しくなくても熱中症を引き起こすことがあります。夏場はエアコンを適切に使いましょう。

熱中症の症状と重症度

医学的には、熱中症の重症度を以下のⅠ~Ⅲ度に分けて評価し、対処・治療します。熱中症への理解を深めるために知っておきましょう。

Ⅰ度(軽症)

めまい、立ちくらみ、筋肉のこむら返り、手足のしびれ、気分不快、大量の発汗などの症状が起きているものの、Ⅱ度やⅢ度には該当しない状態です。通常、現場での応急処置で回復します。

Ⅱ度(中等症)

症状によっては、医療機関での検査・治療が必要な段階です。症状としては、頭痛、吐き気や嘔吐、体のだるさ、力が入らないなどが現れます。

Ⅲ度(重症)

救急車を要請すべき状態です。真っ直ぐに歩けない、高体温(体に触れると熱い)、意識がない、全身のけいれんなどが現れます。

熱中症予防には何をすべき?

暑さに慣れる「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」

体温を下げるには発汗が重要で、発汗には水分の摂取が欠かせません。しかし、それだけでは十分でないことがあります。汗をかくには、それなりの訓練が必要で、筋肉と同じように、発汗機能は使わないと衰えていってしまうからです。

発汗機能を維持し、体を熱に慣れさせていくことを「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」と言います。日本気象協会発行の「暑熱馴化」のマニュアルでは、運動をすることで体温を上げ、汗をかき、体を暑さに慣れさせるようにすすめています。ウォーキングの場合は130分、ジョギングの場合は115分を週5日程度が目安です。雨の日や体調不良の日は休むべきですが、暑さから連日遠ざかっていると、馴化が元に戻ってしまうこともあります。暑熱馴化には2週間ほどかかるとされているため、意識して行動しましょう。

入浴も暑熱馴化に有効です。シャワーだけではなく、しっかり肩まで湯舟につかりましょう。入浴に慣れていない人は、最初は数分程度から始めて、少しずつ時間を延ばしていくと良いでしょう。入浴前後には、体が脱水状態にならないよう、十分な水分と適度な塩分を補給しましょう。なお、一般的に熱中症弱者とされる高齢者に暑熱馴化の効果は大きく現れると言われています。

情報のチェックを怠らない

熱中症のリスクは何といっても、気象条件に大きく左右されます。その日の気象条件を把握して、どの程度の予防対策をすべきかの判断に役立てましょう。環境省と気象庁は夏季を中心に「熱中症警戒アラート」をWebサイトなどで発信しており、全国各地の暑さ指数(WBGT)の実況や予測、また過去5年間の日別暑さ指数などを知ることができます。メールでそれらの情報を受け取ることができるサービスもあるので上手に活用しましょう。

暑さ・日光対策を正しく行う

真夏の日中は外出を控えるのが無難ですが、外出しなければならないときには、日傘をさしたり帽子をかぶり、なるべく日陰を選んで歩くようにしましょう。また、熱がこもらず、汗を吸収してくれる服装(首や袖まわりがゆったりしているデザイン、吸水性や速乾性に優れている素材)を選んでください。汗が皮膚から蒸発する瞬間に体温を下げてくれるため、 汗をかいたらこまめに拭くことも大切です。

屋内にいるときは、エアコンを使いましょう。エアコンの温度設定は28℃がエコ温度と言われますが、使用する際は窓際やエアコンから離れた所は28℃よりだいぶ高くなることにも 注意してください。

脱水にならないよう水分をこまめにとる

脱水予防は、喉の渇きを感じる前に水分を摂取するのがポイントです。1日の排尿回数がいつもと変わらず(一般的には57回)、色が薄い黄色であるかも確認しましょう。排尿の回数が少なかったり尿の色が濃い場合は、脱水に近づいている疑いがあります 。また、コーヒーや緑茶は利尿作用のあるカフェインが多く、脱水リスクを高めるので、飲み過ぎに注意してください 。

なお、アスリートがトレーニングする際や屋外で長時間作業するときなど、大量に汗をかくような場合は水分の補給だけでなく、塩分やミネラル、糖分の補給も大切です。それほど大量に汗をかかないのであれば、食事からの塩分で十分なケースが多いので、むしろ塩分過多にならないよう注意しましょう。

必要な栄養を摂る

汗をかくと水分に加えて塩分などのミネラルが失われるだけでなく、ビタミンも失われます。とくに、水溶性ビタミンであるビタミンB群の不足に注意してください。ビタミンB1は炭水化物をエネルギーとして利用する際にも必要な栄養素です。ビタミンB1の不足によってエネルギーが作り出せず、夏バテしやすくなってしまうこともあります 。ビタミンB群をタンパク質と一緒に摂ると、熱中症リスクが抑制される可能性を示唆する研究報告もされている()ので、意識的に補給しましょう。暑い日は食欲がなくなるという方も多いですが、ビタミンB群が配合された栄養ドリンク剤やゼリー状飲料などを活用して、必要な栄養を摂るようにしましょう。

また、抗酸化作用のあるビタミンAβ-カロテン)、ビタミンC、ビタミンEも、暑さに負けない体づくりに役立ちます。

※参考:「薬理と治療」Vol.44 no.1 2016「たんぱく質およびビタミンB群強化食による暑熱順化への影響」

コロナ対策と熱中症対策を両立させるには?

屋外では適宜マスクを外そう

新型コロナウイルスのパンデミックが続いています。感染拡大抑止にマスクは必須ですが、マスク着用によって熱中症のリスクが上昇する可能性が考えられます。そのため厚生労働省では、夏季に屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクを外すこと、マスクを着用する場合には強い負荷の作業や運動は避けることを呼び掛けています。

また、マスクをしていることで口の渇きを感じにくくなるのではないかという考え方もあります。科学的研究による一致した結論はまだ出ていませんが、喉の渇きを感じる前の水分補給が大切であることは、間違いありません。

換気の際には室内の温度変化に注意

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために換気を行う場面が増えています。暑い日に喚気をする際には、エアコンの設定温度を下げたり扇風機を利用して、室内が暑くなり過ぎないように注意しましょう。

熱中症と新型コロナウイルスの症状の見分け方

熱中症と新型コロナウイルスの初期の症状は似ているため、症状だけでは医療者でも正確な鑑別が困難とも言われます。暑い時期には日々の症状を書き留めておくようにすると、いざというときの受診時の診断に役立ちます。とくに、味覚や嗅覚の異常は鑑別のための情報として重要です。

熱中症になったときの対処法

本人で対処できる場合も見守りが必要

「熱中症の症状と重症度」の項目で解説した「Ⅰ度(軽症)」にあたる状態では、多くの場合、応急処置で回復します。涼しい場所に移動し、水分を補給し安静にしてください。その際、大量に汗をかいている場合は、塩分を含む経口補水液やスポーツドリンクが良く、エネルギー枯渇や疲労も関係している可能性のある場合は、例えばゼリー状飲料のようなものを口にすると良いでしょう。

回復するまで必ずそばで誰かが見守りましょう。2030分しても回復しない場合は、医療機関を受診してください。受診の際にも一人ではなく、誰かが付き添うようにしましょう。

受診や救急要請の目安

「Ⅱ度(中等症)」にあたる状態の場合は、涼しく風通しの良い場所に移動させ経口補水液を摂取させます。意識がもうろうとしていたり、力が入りづらかったり、自力では飲料が摂取できない場合には、すぐに医療機関に連れて行くか「119番」をしてください。判断に迷ったら、まず救急安心センター事業「7119番」に相談を。電話口で医師や看護師などの専門家が救急相談に応じてくれます。

「Ⅲ度(重症)」にあたる状態の場合は、躊躇せずに「119番」へ連絡しましょう。

救急車が到着するまで、患者さんを涼しい場所に移動し、足を高めにして横に寝かせてください。衣服をゆるめて風を当て、入手可能なら氷のうなどを首や脇の下に当てたり、全身に霧吹きで水をかけて、体温を少しでも下げるようにしてください。

■参考文献
総務省消防庁「熱中症情報」
https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html
環境省「熱中症予防情報サイト」
https://www.wbgt.env.go.jp/
日本気象協会「熱中症ゼロへ」
https://www.netsuzero.jp/
医学のあゆみ「熱中症に立ち向かう――予防と応急処置」274巻-2号
薬理と治療 Volume 44, Issue 1, 73 - 83 (2016)
http://www.pieronline.jp/content/serial/0386-3603;jsessionid=3ubs9oud5og2g.x-sunmedia-live-01

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