物忘れ(認知機能の低下)
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物忘れ(認知機能の低下)

人の名前を思い出せなかったり、何をしようとしたのか忘れてしまったりする物忘れは、年齢に関係なく日常的に起こります。しかし、家族の名前を忘れてしまったり、同じことを何度も質問するような重度の物忘れは、認知症などの疾患が隠れている場合もあります。

井上修二 先生

監修

井上修二 先生 (いのうえしゅうじ) (共立女子大学名誉教授、医学博士)

日常生活から考えられる原因

加齢にともなう記憶力の低下

記憶力は、20歳代をピークに徐々に減退していきます。とくに60歳頃になると、記憶力に加え判断力や適応力なども衰え始め、段々と物忘れが多くなるようになります。しかし、人の名前を忘れてもヒントを与えると思いだすなど、自分で記憶力の低下を自覚しているような物忘れは、加齢によって誰にでも起こることですから、それだけではイコール認知症というものではありません。

精神的ストレス、栄養バランスの乱れ、過労、寝不足

精神的ストレスが溜まっていたり、栄養バランスの乱れた食生活や過労、寝不足が続くと、集中力が低下して物忘れが多くなります。これは心身に疲れが溜まっているサインですから、十分な休息をとって回復する必要があります。

薬物による中毒

睡眠薬、抗うつ薬、精神安定剤などの脳に作用する薬によって物忘れ、知能低下などの副作用の症状を示すことがあります。また、高齢者では数種類の薬を併用していることによって相互作用を起こすことがあり、脳に作用する薬以外でも物忘れ、知能低下などの症状を示すことがあります。

物忘れの原因となる主な疾患

重度の物忘れは、認知症や脳腫瘍、慢性硬膜下血腫など脳の疾患が原因で起こり、物忘れ以外にも外出がおっくうになったり、気分がふさぐようになったりする意欲の低下をともなうこともあります。脳の疾患以外では、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症などが物忘れの原因になります。

物忘れ(認知機能の低下)をともなう疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって、脳の細胞に異常が起きたことで生じる認知症のことです。洋服のボタンをかけ違えるなど、以前はできたことができなくなったり、何か尋ねても答えが出るまでに時間がかかったりするようになります。こうした判断力の低下によって徐々に日常生活に支障をきたすようになり、周囲の人が疾患に気付くケースが多くあります。症状は、脳血管障害の発作を起こすたびに段階的に悪化していきます。

アルツハイマー型認知症

脳の細胞が段々と委縮し、思考や記憶、言語に関わる部分が障害される疾患です。初期症状では、昔のことを覚えているのに、最近のことが思い出せなくなるなどの記憶障害が起こり、また、周囲のことに興味を示さなくなります。表情が乏しく、沈んだようになったかと思うと、多弁になるなど気分の波が激しくなることもあります。症状は徐々に進行していき、やがて家族や友人がわからなくなったり、徘徊や幻覚がみられるようになったりします。

脳腫瘍

頭蓋内にできた腫瘍が大きくなることによって、周囲の脳組織と神経を圧迫し、脳機能に障害をもたらす疾患です。特徴的な症状は頭痛と吐き気、嘔吐です。頭痛は早朝に痛みを強く感じ、日中にかけて次第に弱くなりますが、日を追うごとに痛みがどんどん強くなります。さらに腫瘍がどこで発生したかによって、記憶力や判断力の低下による物忘れ、手足の麻痺やけいれん、視野が狭くなるなど、さまざまな症状があらわれます。

慢性硬膜下血腫

頭部の打撲などが原因で、脳を包む膜と脳の間に徐々に血液が溜まり、大きな血液の塊による血腫ができます。それが脳を圧迫して、頭痛、記憶力の低下、手足の麻痺や意識障害などの症状を引き起こします。高齢になるほど記憶力の低下が起こりやすいといわれています。手術で血腫を取り除くと元の状態に戻ります。

水頭症

脳を保護する髄液は、脳の中側にある脳室で分泌され通路を経て、髄膜で吸収されますが、なんらかの原因で通路に流出できず、分泌された髄液が溜まり、脳圧の上昇により脳室がふくらんだ状態が水頭症です。脳腫瘍や頭蓋骨内での出血などが原因となって起こり、50〜60歳代での発症が多くみられます。物忘れなどの記憶障害や意欲の低下、尿失禁などが症状としてあらわれます。とくに特徴的なのが歩行障害で、左右の足の幅が広く、小刻みで不安定な歩行をするようになります。

甲状腺機能低下症

免疫の異常を主な原因として、甲状腺ホルモンの分泌や作用の低下が起こる疾患です。進行すると元気がなくなったり、皮膚のカサつき、むくみ、生理不順などの症状があらわれることがあります。また、甲状腺は脳の細胞の働きにも使われていますので、不足することで物忘れ、集中力や思考力の低下などがみられることもあります。

ビタミン欠乏症

ビタミンは、バランスのとれた食生活をしていれば不足することはそうありません。しかし、偏った食生活、アルコールや清涼飲料水の飲みすぎ、加工食品のとりすぎによって不足することがあります。ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸が不足すると、イライラ感や軽度のうつなどが起こり、さらに進行すると記憶力の低下や錯乱、せん妄などの症状があらわれ、認知症と間違えられることもあります。

うつ病

特別な疾患がないのに、だるさや疲れがとれず気力が低下したり、落ち込んだりして興味や楽しい気持ちを失い、それを自分の力で回復するのが難しくなる疾患です。多くの場合、食欲が減退し、食事の量が低下して体重が減少します。その他睡眠障害、集中力の低下をはじめ、認知機能が低下して物忘れが多くなり、体の動きが鈍ったり、逆にイライラして焦る気持ちが強くなったり、疲れが激しくなるなど、心と体の双方に症状があらわれます。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

対処法

ストレスや疲れを溜めない健康的な生活を心がける

日常の物忘れが気になるというときは、心と体の疲れが溜まっている可能性があります。少しでもリラックスする時間を持ち、質の良い睡眠をとって、日々の疲れを溜めこまないようにしましょう。また、1日3食の規則正しい栄養バランスの整った食事をとることも、健康的な心身を保つために大切です。

病院で診察を受ける

物忘れで困ることや、物忘れを他人に指摘されるようなことがあるようなら、まずはかかりつけ医を受診しましょう。日常生活に支障が出るほどの物忘れが起こり、認知症が疑われるときは、精神科、神経科、老年科が受診対象となります。また、最近ではもの忘れ外来を開設している病院も増えており、精神科などに抵抗があるような人でも気軽に受診できます。

プチメモ認知症早期発見のためのサインを見逃さない!

認知症早期発見のためのサインを見逃さない!

認知症は、早期発見することができれば、現在は薬や運動療法によって進行を遅らせることができます。早期発見のためには、認知症の初期症状と、単なる加齢による物忘れとの違いを知っておくことが大切です。認知症の初期には(1)自分の経験した出来事全体を忘れる、(2)ヒントを与えても思いだせない、(3)物忘れの自覚がない、(4)日時の認識が混乱する、(5)怒りっぽくなり、意欲が乏しくなるなどの変化がみられます。これらに一つでも当てはまるようなら、専門医を受診しましょう。