味覚障害
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味覚障害

味覚の感度が低下したり、消失したりする状態が味覚障害です。甘味、酸味、塩味、苦味、旨味などの味覚が低下したり、何を食べても味を全く感じなくなることもあります。また、口の中に何もないのに塩味や苦味を感じることや何を食べてもまずく感じてしまうことなどの症状もあります。このように本来の味と違った味がすることも味覚障害です。

井上修二 先生

監修

井上修二 先生 (いのうえしゅうじ) (共立女子大学名誉教授、医学博士)

日常生活から考えられる原因

偏った食生活による亜鉛不足

偏った食生活によって食事からとる亜鉛の量が不足すると、舌の表面にある味を感じる細胞(味蕾・みらい)の新陳代謝が十分に行われなくなるため、味覚障害があらわれます。また、食品添加物の中には食品に含まれる亜鉛が体に吸収されるのを妨げるものがあるといわれています。

高齢による味覚の減退

加齢とともに味を感じる感覚器の機能が低下することによる味覚障害が増えています。近年では60歳代から70歳代をピークに味覚障害を訴える人が増加し、65歳以上のいわゆる高齢の患者さんが味覚障害の約半数近くをしめる状態になっています。

嗅覚の低下をともなう味覚の低下

風邪などで鼻詰まりを起こしているときに、食べ物の味が分からなくなることがあります。これは、味覚と嗅覚が密接に関係していることによります。口と鼻から味とにおいの情報が脳に送られ、一つに統合されることによって風味を味わうことができるので、嗅覚が低下しているときは味覚障害が起きやすくなります。

舌の表面の異常

舌の表面には、舌苔(ぜったい)という白い苔のようなものが薄くついています。これは舌の細胞がはがれたものや食べ物のかす、細菌、白血球の残骸などが堆積したものですが、疲れたりストレスが強いとき、風邪などで高熱が出たときに厚くなったり、色が変わることがあります。舌苔が厚くなったり、色が変わると、舌の違和感や味覚障害があらわれます。

薬の副作用やがんの治療

降圧薬や精神疾患薬、鎮痛・解熱薬、抗アレルギー薬、消化性潰瘍治療薬など、多くの薬が味覚障害の原因となります。また、がん化学療法を受けている人の3〜5割に味覚障害があらわれ、吐き気や食欲不振をともなう例が多くみられます。頸部から頭部にかけてのがんで放射線治療を受けている人の場合は、そのほとんどに味覚障害があらわれ、唾液の分泌の減少や口の中の痛みをともないます。

味覚障害の原因となる主な疾患

口腔内の異常により味覚障害を起こす主な疾患は、舌炎や口内乾燥症(ドライマウス)などです。味覚障害を招く疾患には、貧血や消化器疾患、糖尿病、肝不全、腎不全、甲状腺疾患などがあり、味覚を伝達する神経経路が異常をきたすことで味覚障害を起こす疾患には、顔面神経麻痺や脳梗塞・脳出血、聴神経腫瘍、糖尿病などがあります。

味覚障害をともなう疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

亜鉛欠乏症

体内に亜鉛が不足した状態です。亜鉛は人が生きていくために極めて重要な金属で、不足すると味覚や嗅覚障害をはじめ、皮膚炎、脱毛症、生殖機能の低下、食欲不振、鉄欠乏性貧血、糖代謝異常などさまざまな障害があらわれ、感染症にもかかりやすくなります。亜鉛の摂取不足や消化器疾患による亜鉛の吸収障害、腎臓の疾患による亜鉛の排泄の増加などによって引き起こされます。

舌炎

正常な舌の表面は、小さい突起に覆われているために、全体がザラザラしています。この表面の舌の付け根や舌の先から両側の中ほどに味を感じる細胞(味蕾・みらい)があります。舌炎はこの味蕾のある表面が炎症によって赤くなり、食べ物によってしみたり、歯にあたって痛み、味が見分けにくくなる味覚障害を起こします。原因はいろいろで、熱い食べ物による火傷、義歯による傷、ウイルスによる感染などによるものがあります。

口腔乾燥症(ドライマウス)

唾液の分泌が減ったり、口呼吸などで口腔粘膜の水分が失われて起こる疾患で、ドライマウスとも呼ばれています。唾液の量が減ると食べ物の味物質が溶け出しにくくなったり、舌の表面の味を感じる細胞(味蕾・みらい)が働きにくくなるために、味覚障害が起こります。原因としては、加齢をはじめ、良く噛まないで早食いをする食生活、生活習慣病、精神的なストレス、薬の副作用などが挙げられます。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 ドライマウス

貧血

鉄分の不足が主因で、酸素と結合して酸素を体のすみずみまで運ぶヘモグロビンが減少し、血液中の濃度が薄くなった状態です。ヘモグロビンの数値が男性は13.0g/dl以下、女性は12.0g/dl以下になると、貧血とされています。だるさや倦怠感、めまいなどの症状があらわれる前に、舌の表面が赤くつるつるした状態になり、味覚障害が起こることが少なくありません。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。
貧血

糖尿病

糖尿病は膵臓でつくられるインスリンの分泌や作用が低下し、血糖値が慢性的に高い状態になる生活習慣病です。初期には自覚症状があらわれませんが、放置すると重い合併症を引き起こすことがあります。その一つが神経障害で、味覚を伝達する神経が侵されると味覚障害が生じます。また、糖尿病性腎症により腎臓の機能が低下すると、尿への亜鉛の排泄量が増えるため、味覚障害が起こります。

顔面神経麻痺

顔の筋肉を支配している顔面神経がおかされることによって、顔の片側に突然麻痺が起こり、まぶたが完全に閉じなくなったり、頬や口角がたれ下がってよだれが垂れるなどの状態になります。また、まれに味覚障害が起こることもあります。脳出血などによる半身麻痺、帯状疱疹による神経の障害、極端に顔の片側だけを長時間冷やすことも顔面神経麻痺を起こす原因になります。

聴神経腫瘍

脳から耳に出ている聴神経に発生する良性の腫瘍で、脳腫瘍の約10%をしめます。はじめは軽い耳鳴りが次第に強くなる場合は、聴神経腫瘍の可能性があります。腫瘍が大きくなると、腫瘍を切除しても聴力がおとろえたり、顔面神経に障害をきたし、麻痺が起こると味覚障害が生じることがあります。

脳梗塞、脳出血、頭部外傷

脳梗塞は脳の血管に血液の塊(血栓)が詰まることによって、脳の組織が破壊される疾患です。脳出血は脳内の血管が破れて出血する疾患で、脳の中にできた血液の塊が周囲の組織を圧迫すると脳の障害が進みます。大脳、小脳や脳幹部にこれらの障害が起きると、激しいめまいや頭痛、吐き気、嘔吐などの症状とともに、味覚障害が起こることがあります。また、頭部外傷によって味覚に関与する中枢神経が障害されると味覚障害を起こします。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

日常生活でできる予防法

バランスの良い食生活で亜鉛不足を防ぐ

1日に必要な亜鉛の量は約15mgですが、日本では多くの人が不足しているといわれています。魚介類のカキをはじめ、ごま、海藻、大豆、ブロッコリーなど亜鉛を多く含む食品を積極的にとり、できるだけ添加物の少ない食事を心がけましょう。また、摂取した亜鉛が効果的に働くためには、日頃からビタミンやミネラル、たんぱく質をバランス良くとることも重要です。

対処法

病院で診察を受ける

味覚障害は歯科で対応できる場合もありますが、専門的な検査や治療は主に耳鼻咽喉科が行っており、味覚専門外来を設けている病院もあります。倦怠感や立ちくらみ、口が渇く、食欲不振などの症状をともなう場合は、内科を受診しましょう。また、他の疾患で治療を受けている人は、主治医に相談してみましょう。

プチメモ年をとるとあっさり味好みになるのはなぜ?

年をとるとあっさり味好みになるのはなぜ?

昔はこってりとした、濃い味つけの食べ物が好きだった人も、年をとるにつれてあっさりしたものを好むようになります。これは、唾液が減ることででんぷんを分解する酵素の働きが低下したり、入れ歯のために噛むことが苦手になったりして、消化能力が衰え、胃に負担の少ない食べ物を好むようになるからです。また、エネルギー代謝が衰えて汗をあまりかかなくなるため、若い頃に比べて塩分の必要量も減ります。高血圧や糖尿病などの食事療法として塩分や糖分などに制限がある生活をしていることも、味覚の嗜好の変化に影響しているのではないかといわれています。