下痢
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下痢

急な便意と腹痛を伴う下痢は、トイレの不安をはじめ日常生活の質に大きな影響を与えます。ここでは、下痢の症状や原因、下痢が起こるときの腸の状態、対処法、治療、薬などについてご紹介します。

※「下痢セルフチェック」は、井上修二先生(共立女子大学名誉教授、医学博士)のご監修です。

内藤 裕二 先生

監修

内藤 裕二 先生 (一般社団法人 日本ガットフレイル会議 理事長/日本潰瘍学会理事長/日本酸化ストレス学会理事長/京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座教授)

下痢ってどういう状態?

下痢の症状

下痢は排便の回数が多く、水分を多く含む形のない便が出る状態をいいます。
口腔(口の中)から肛門へと続く一本の管を消化管といいますが、食物は消化管である食道、胃、小腸、大腸などへ移動しながら消化吸収され、最終的には便となって肛門から排出されます。この過程で、腸の水分の吸収が不十分だったり、腸からの分泌物が増加することで下痢が起こります。

下痢の原因は、食べ過ぎや飲み過ぎによるもの、ウイルスや細菌が起こす食中毒によるもの、薬物の副作用によるもの、胃腸の疾患によるもの、ストレスが影響するものなどさまざまです。原因により治療や対処法は異なります。
なお、軟らかでやや形が残っている便を軟便、水分の含有量が多く形をなさない便を下痢と分けることもあります。

軟便に関する記事はこちら 軟便

下痢の種類とその原因

運動亢進性下痢(ぜん動運動性下痢)

消化管の中を通ってきた食物は、腸が伸びたり縮んだりする「ぜん動運動」で肛門側に運ばれます。その、ぜん動運動が活発になり過ぎると、便が腸の中を急速に通過し、水分吸収が不十分となることで下痢が起こります。

考えられる原因
ストレス、暴飲暴食、過度の飲酒、不規則な生活などで腸が過敏になり、ぜん動運動が必要以上に活発化することで起こります。また、冷えなどによって自律神経のバランスが崩れることでも、ぜん動運動の異常や腸の痙攣が起こる場合があります。

分泌性下痢

腸液(腸腺や腸粘膜から分泌される消化液)などの水分の分泌量が増え過ぎると便中の水分が多くなり下痢が起こります。

考えられる原因
細菌やウイルスによる感染、魚介類、鶏卵、小麦などによる食物アレルギー、薬の副作用などが考えられます。

浸透圧性下痢

水分を引き付ける(浸透圧を上げる)食物が腸に入ってくると、腸からの水分吸収が妨げられ下痢が起こります。

考えられる原因
水分を引き付けるものには、一部の下剤(マグネシウムを含むものなど)や人工甘味料などがあります。後述しますが、牛乳を飲むとお腹をこわす乳糖不耐性の下痢もこれに分類されます。

滲出性下痢

腸が炎症や潰瘍で傷つくと、水分の吸収能力が低下するばかりか、そこから血液成分、体液、粘液などがにじみ出て、便の水分量を増やし下痢が起こります。

考えられる原因
クローン病、潰瘍性大腸炎、腸結核、ウイルス性腸炎、がんなどのさまざまな病気が原因となります。

その他の分類

その他に、「急性下痢」と「慢性下痢」という分類や「内因性下痢」と「外因性下痢」という分類もあります。

急性下痢・慢性下痢
食中毒や感染症(O-157、ノロウイルスなど)のように急に発症し、長くても2週間程度で治まるものを急性下痢、比較的長く(目安として3週間以上)続くものを慢性下痢といいます。

内因性下痢・外因性下痢
内因性下痢はストレスなどによる腸の異変や炎症によって起こります。一方、外因性下痢は食中毒や暴飲暴食などのように外から入ってきたものの刺激により起こります。

下痢を伴う疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

過敏性腸症候群

精神的ストレスや情緒不安定などが原因で、腸のぜん動運動に異常が起こり、腹痛を伴う慢性的な下痢や、ときに下痢と便秘が交互に起こることもあります。何週間も下痢が続いたり、一時的に治まり、その後再発するという現象を繰り返すこともあります。

人に会う前に急にお腹が痛くなる、通勤・通学で電車に乗ったときにトイレに行きたくなる、検査をしても大腸に腫瘍や炎症が見つからない、下痢気味なのに「私は胃腸が弱いから」とあきらめているなどの場合、この疾患を疑ってもよいかもしれません。成人のおよそ1割に上る人がこの病気だといわれています。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 過敏性腸症候群

潰瘍性大腸炎

何らかの原因で大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、粘膜がただれたり、潰瘍が多発します。下痢と腹痛が長期間続き、粘液や血液の混じった便が出たり、発熱などの症状があらわれます。ストレスで症状が悪化します。

現在のところ原因は明らかにされていませんが、腸内細菌の関与、自己免疫反応の異常(免疫機構が正常に機能しない)、食生活の変化などが考えられています。最も多い発症年齢は20代ですが、高齢者も発症します。

大腸ポリープ

大腸の内側からイボのように突き出た球状の腫瘍です。初期の段階では自覚症状はなく、ポリープが大きくなったり、肛門の近くに発生したりすると、血の混じった便が出ることがあります。また、下痢、便秘といった症状が見られることがあります。

多くは良性ポリープですが、放置すると大腸がんに進行することもあります。高年齢になると増え、動物性たんぱく質や脂肪の過剰摂取、食物繊維の不足などが原因ではないかと考えられています。

食中毒や風邪、感染症

O-157、ノロウイルス、サルモネラ菌など、細菌やウイルスが原因となる食中毒、ウイルス感染による風邪、コレラや細菌性赤痢などによる感染症に急性の下痢の症状が見られます。新型コロナウイルスによる感染症でも下痢の症状が見られる可能性があるとされています。

細菌やウイルスの種類によっては、嘔吐や吐き気、発熱、血便、腹痛、脱水などのうち緊急性を伴う症状が出現し、治療を急ぐ必要があります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 食中毒 風邪(かぜ)

乳糖不耐症、消化管アレルギー

乳糖不耐症は、牛乳などに含まれる乳糖を分解する消化酵素(ラクターゼ)が少ないために、牛乳などを飲んだとき下痢を起こす疾患です。下痢のほか、腹痛や嘔吐などの症状を起こします。日本人は遺伝的に乳糖を分解する力が弱く、牛乳で便が軟らかくなることが多いとされています。

消化管アレルギーは、食物アレルギーのうち、主に消化器に症状があらわれるものをいいます。アレルギー体質の人が特定の食品(たんぱく質を含む食品が多い)を摂取すると、下痢のほか、吐き気、嘔吐、腹痛などが起こります。主に粉ミルクの摂取により新生児や乳児に多く発症しますが、最近では若年者の消化管アレルギーが増加しています。

そのほか注意したいこと:脱水症状

下痢は体の防御反応ですが、下痢による脱水には気をつけなくてはいけません。のどの渇きはすでに脱水が始まっており、めまい、微熱、ふらつきなどの症状が現れます。

軽度の場合は、水分補給で回復することが多く、尿の色が濃くなって、量が減ってくるようなら腎不全にも至り、重症となります。さらにこの状態が進む場合は、脈拍も速くなり血圧が低下し、ショック状態も起こしかねません。下痢といえども軽く見るのは危険です。症状を的確に訴えられないことが多い小児や高齢者では特に気を付けましょう。

脱水症状に陥らないためには、水分だけでなく塩分など電解質の補給が重要です。スポーツ飲料などを摂取したり、消化の良い炭水化物を摂ったりするとよいでしょう。また、脱水症状になりかけていると感じたら、迷わず医療機関を受診し、点滴による水分補給などの治療を行ってください。

日常でできる下痢の予防法

食べ過ぎ・飲み過ぎをセーブする

刺激の多い食べものや脂っこい食事の摂り過ぎ、お酒の飲み過ぎも下痢の原因となります。消化がよくお腹(胃腸)にやさしい炭水化物をしっかりと摂り、アルコール類のほか、コーヒーや炭酸飲料の過度の摂取は控えるようにしましょう。そして、こまめな水分の補給も忘れないようにしましょう。

ストレスを発散する

ストレスは、過敏性腸症候群などの慢性的な下痢の原因になります。ゆっくり休息する時間をとる、睡眠をきちんととる、趣味を見つけるなどして、ストレスと上手につき合っていきましょう。また、健康的な生活はウイルスや細菌などによる感染症の予防にもつながります。

タバコを控える

タバコに含まれるニコチンは腸のぜん動運動を急激に促し水分吸収を妨げるので、下痢の一因になります。愛煙家で下痢に悩んでいる人は、タバコの本数を減らすか、禁煙にチャレンジしましょう。
https://alinamin-kenko.jp/tokushu/daichosa/chosa09.html

定期的な大腸検査を受ける

主な大腸検査には、便潜血検査(肉眼では発見できない便に混じる血液を調べる検査)、内視鏡検査、CT検査、カプセル内視鏡検査などがあります。このうち、便潜血検査は初期に自覚症状がない大腸ポリープの早期発見のきっかけになります。

腸内フローラを整える

大腸では多種多様な細菌が共生し、腸内フローラと呼ばれる細菌の群れを形成しています。そして、腸内フローラにおける細菌のバランスは人の健康を左右します。

腸内細菌には、いわゆる「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」があり、健康な腸内では、善玉菌が悪玉菌の増殖を抑制しバランスを維持しています。腸内フローラのバランスは、下痢や便秘といった消化器症状だけではなく、肥満症、アレルギー、喘息などの疾患にも関係するといわれています。悪玉菌は、ストレス、不規則な生活、たんぱく質や糖質を中心にした食事などが原因で腸内に増えていきます。

腸内フローラの状態を整え、健康を維持するために、バランスの良い食事(肉類の過剰摂取に注意し、発酵食品や食物繊維を意識して摂取する)、適度な運動、ストレスケアなどを心がけていきましょう。酪酸菌、乳酸菌、ビフィズス菌などが含まれた整腸薬も腸内フローラを整える効果があります。

下痢の対処法

自宅でのセルフケア

下痢が起こったときに心がけること、下痢の種類に応じた対処法、市販薬を使うときの留意点などを説明します。

短期で治まる急性下痢の場合
急に起こった下痢は、短期間で治まることが少なくありません。「いつもの下痢」であれば、安静にしながら、次のようなセルフケアでお腹をいたわりましょう。

激しい下痢は脱水症状を引き起こすことがあるため、水分の補給が大切です。冷たいものは刺激が強いので、湯ざまし、うすい番茶、麦茶、ぬるめのミネラルウオーターを少しずつ何回にも分けて飲みましょう。胃腸を休めるためにも、おかゆ、すりおろしたリンゴ、野菜スープ、脂肪分の少ない鶏のささみや白身魚、卵を使った料理を食べましょう。

3週間以上続く慢性下痢の場合
慢性下痢には、他の疾患が隠れていることがあります。医療機関への受診を検討するとともに、次のようなセルフケアで食生活を改善していきましょう。

腸への刺激が少なく、消化が良く、栄養価が高い食材を使って体の抵抗力を上げていきましょう。柔らかいご飯やうどん、さといも、じゃがいも、卵、鶏のささみ、柔らかい赤身の牛肉、白身魚、豆腐、納豆、バナナ、リンゴ、ヨーグルトといった食材を積極的に摂るとよいです。また、牛乳などの特定の食品を摂取すると下痢になる場合は、その食品は避けるようにしましょう。

市販の薬を使うときは
止瀉薬(ししゃやく)は下痢を止める効果があります。ただし、原因が食中毒の場合、むやみに腸のぜん動運動を抑制すると、病原菌を体内にとどめてしまい、細菌やウイルスなどによる感染性の下痢を悪化させることがあります。

一方で、下痢が止まらないと脱水の危険もあります。こうしたことを考慮に入れ、下痢止めは、食べ過ぎ・飲み過ぎ・寝冷えなどによる下痢に使用することをまずは考えましょう。腸内のバランスを整える効果がある酪酸菌、乳酸菌、ビフィズス菌、などが含まれた整腸薬なども下痢の際の整腸には有効です。また、下痢に効果のある漢方薬もあります。

医療機関の受診

長期間続く下痢や経験したことのない激しい下痢、脱水症状がありぐったりしている場合、下痢以外に高熱・吐き気・嘔吐がある場合、強い腹痛、血や粘膜が混じる便の症状などがある場合、下痢止めなどを2〜3日服用しても治まらない場合は、医療機関を受診しましょう。

※画像はイメージです

参考
一般社団法人 日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ42下痢の正しい対処法」
https://www.japha.jp/doc/byoki/042.pdf

鳥居明; 日本内科学会雑誌. 108: 36-39, 2019.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/1/108_36/_pdf
金井隆典; 埼玉医科大学雑誌, 43, 7, 2016.
http://www.saitama-med.ac.jp/jsms/vol43/01/jsms43_007_008.pdf